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第17話 憂鬱な義妹

last update 最終更新日: 2025-05-26 11:05:43

 車に乗り込む義兄《あに》の後ろ姿を見ながらため息をついた。

「また、お義兄《にい》ちゃんはカレンさんといっしょかぁ……」

 ホントなら兄の隣で微笑む役目は自分なのだと心の中で何度も思う。

 その思いが伝わることは今は無いだろう。

 なぜなら私は大事な秘密を隠している。それが義兄に知れてしまうことを恐れているから。せっかく仲良くなれて今はとても大事に思ってくれているだろうことは十分に私に伝わってくる。

 だから今は言えない。

 だけど、いつかは話をしなければと思う。

 そう、私にも義兄《にい》と同じモノが見えているという事を。

 私はお父さんを良く知らない。

 お母さんと同じ職業だったことは知ってるけど、それ以外はお母さんがあまり話をしてはくれないからだ。

 それに外見だって知らない。写真もない。

 小さい頃はお爺ちゃんと、お婆ちゃんと暮らしていたけど、お父さんの話が出ることもなかった。

 そしてそのモノがいることも当たり前だった。

 私も小さい時から見えてたんだ。お母さんもお爺ちゃんもお婆ちゃんも、そのモノは見えてないみたいだったから話せなかったけど、私にはそれが普通の事。

 ある時思い切ってお母さんに話したら、すごく悲しそうな顔をして涙を流してた。それが小さい私にも悲しくて泣いちゃった。

 それからはお母さんにもそのモノの事は話してない。

 私のことで泣いてほしくなかったから。

 それから少し大きくなった私に、突然変化が起きた。

 お母さんが大きな男の人と、私より少しだけ歳が上の男の子を家に連れてきたの。

 この時のことはあんまり覚えてないんだけど、大きな男の人に会ってビックリして泣いちゃったみたい。

 その時、男の子が私の頭をポンポンなでなでしてくれたみたいで泣き止んだんだって。実はその時に撮られた写真が残ってて、今は私の大事な宝物としてずっと持ってるの。

 それからしばらくしてその二人が新しい家族になった。私にお義兄《にい》ちゃんができたんだ。

「いおり~い

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